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ケーキに加えプチボーナスと焼き肉屋の券まで貰い、満足な表情で受付に向かうと、木村さんはクスッと笑い見送ってくれた。
月収が高いので本来ボーナスはないが、冬は社長のはからいで去年も貰っている。
母は娘がパン工場で働いていると思っているので、指折り数えてボーナスの日を楽しみにしているし、正社員で働いているのに無いとも言えない。
なので貯金に回すお金からボーナス分を引き、あるフリをしているが、勿論金額は少なめに設定している。
「今年は何をねだられるんだろうね」
「衣類は欲しいだろうけど、あとは王子達メーンじゃない?」
今は誰も住んでいない祖父母宅は、傷んでる場所もあるし、貧乏人に限って出費が増えてしまう。
既にスノータイヤに変えたし、木小屋の壁面のトタン代も消えてしまったが、地味に金額がかさんだ。
その事を踏まえると、高いプレゼントは求めないと思うが、まだ本人の口から聞いてないので油断は出来ない。
帰りは霜が降りる程気温が低いし、まだ辺りも暗いので自然と早足になるが、それも五分の辛抱だ。
玄関に近づくとタタタッとドタドタという足音が重なり、ドアを開けると満面の笑みの母が、ケーキの箱を二つ持ってリビングに向かった。
「嬉しいサプライズだわ、ケーキの箱が三つもあるよぉイナリィ、キセロォ」
「一個はリーダーがくれたんだけど、勿論一気に食べたりしな……」
「記念写真撮ろっ、ケーキの前に顔を寄せて誕生日気分で撮影されたい!」
疲れて帰った娘に睡眠を取らせるという気遣いはなく、ミーハー女子にでもなったつもりなのか、王子達の服を選ぶ母を誰も止める事は出来ない。
気の済むようにどうぞと諦め、コーヒーを淹れ座っていると、瑠里にケーキの箱を開けてと指示が入った。
テレビの間の机に苺が乗ったホールケーキが置かれると、王子達まで興奮し顔を近づけようとしているが、そういう時だけは素早い母。
イナリ達の胴をサッと持つと、自分の両頬に持ち上げお澄まし顔でポーズを決めていた。
「は……はい、チーズ」
誰もオバサンのはしゃいでる姿に興味はないので、瑠里は機械的に写真を撮り、私は無言でケーキ皿を用意していた。
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