100人が本棚に入れています
本棚に追加
「百合のケーキも見てみたら?」
「そっか、知らなかったの忘れてた」
無駄な撮影会の中、表向き私の為と頼んだ箱を開けると、疲れも吹き飛びそうな位テンションが上がった。
「えっ?!これ小豆のシフォンケーキ?」
生クリームは少なめだし、上には綺麗に小豆が敷き詰められていて、フチには栗がトッピングされている。
「中も小豆スポンジと抹茶の二層で、刻んだ栗と小豆がふんだんに使われててさ、カタログ見た瞬間に百合の好みだと思った」
「素晴らしいよ……クリスマスにあえての『和』で攻める小憎いプロデュース」
満足するまで撮影を終えた母達は、自分達のケーキのカットし始め、私も順番を待ち切ってみると、綺麗な断面に口元が緩んだ。
「後はお味だよね――っ」
貧乏人の舌なんてたかがしれているが、それでもお約束で言いたいらしく、テレビの間に自分の皿を運んでいる。
二人はもう口に運んでいたが、私が持ってるフォークと大きさが違う事に気づいた。
「ちょっ、それケーキ用サイズじゃないよね」
「だってぇ、これだけ沢山あるとちょっとぼうへ……」
冒険したいと言いたいのだろうが、口に頬張りすぎて続きが言えてない。
元々質より量の貧乏一家に沢山買っても『餌を与えないで下さい』状態で、母の皮下脂肪を増やす事になるだけと心の中で反省した。
「まぁ、ケーキ食べ過ぎてくれたら、夜の焼肉の量が減るからいいけど」
同じく大きなフォークで食べてる瑠里だが、これからの予定も考えてるようで、ドラム缶程の大きさにはカットしていない。
一気に食べるのは勿体ないので、私は一人分を小さめにカットしてるし、一口づつ噛みしめ小豆のスポンジ部分を堪能していた。
「ちょっと百合のも食べてみたい」
「……今、晩は焼肉って言われたばかりだよね」
自分のを綺麗に平らげ、ケーキをカットする気満々の母だったが、残念そうに箱に収めると私の皿をチラ見している。
「そのフォークで取る気ならあげないよ?」
「ううん、端っこを少しでいい」
和風ケーキはドラム缶にも好評だったが、お次は王子達が前足を机に乗せ、スタンバッている。
イナリとキセロにおすそ分けしていると、遠慮なく催促が続くので、あっという間に皿から消えてしまった。
最初のコメントを投稿しよう!