聖夜の食事

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仮眠してどれくらい経ったのか分からないが、少し前から部屋の中で、下手な歌声がして目を開ける。 「……何?もう少し寝たいんだけど」 「もう夕方の四時だよ?焼き肉屋オープンの時間じゃん!」 堂々と言い返されたが今日はイヴだし、本来ならチキン……いや過去の我が家なら、贅沢すぎて買うとしてもナゲットだ。 開店と同時に焼き肉屋に行く必要はないのに、ジングルベルのサビの部分だけ張り切って歌っている。 こんな起こされ方は不服だったが、しつこそうなので身体を起こした。 王子達はサンタ服を着せてもらい、あまりの可愛さに笑みが漏れるが、ドラム缶は次の仕事と言わんばかりに、サンタ二匹を連れ妹の部屋に向かった。 「ジングルベール、ジングルベール、鈴が鳴るぅ」 リビングに向かう際もまだ歌っていて、ため息を吐きテレビを見ると『イケメン陰陽師』が始まっていたが、さすがに今日はチャンネルが合ってない気がする。 「疲れた、後は王子達に任せて支度しなくちゃ」 イザリ屋に入ってから我が家のクリスマスは『ごちそうを食べる日』となっているが、そんな贅沢が出来るのも仕事のおかげなので、そこは感謝している。 代わりに身の危険は何度も感じ、死にかけた事もあるが、ただの貧乏人で何もなかった私達が唯一才能を買われた場所だ。 刻印が出なければ恐らくパン工場で働き、人間関係が上手く行かず辞めていたかもしれないと思うと、農家出の祖父母の墓参りも欠かしてはならない。 いろんな偶然が重なり働く事になったが、たとえ人に言えない裏の仕事でも、せっかく貰った能力なら使わないと損と思うのが貧乏人の考え方だ。 「今日は焼肉食べたら終了だからね」 「分かってます!プレゼントは明日買いに行くんでしょ」 どっちが子供か分からない程、目を輝かせ答える中年メタボ女子だが、ここはサラッと聞き高そうな物なら瑠里を呼んで却下してもらうしかない。 「高い物は無理だけど、一応リクエスト聞いておこうか」 「今ね……ちょっと悩んでて」 素早く自分の部屋に戻ると、薄めのパンフレットを二種類出されたが、どれと聞く必要もない位に大きくマジックで丸印がつけられていた。
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