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でも男性達の頭上を見たが変化はなく、瑠里はずっと見破りの術と言っては指を組み、忍者探偵Ⅹになりきっていた。
『な……なんで?!』
頭の上に文字が浮かばないならもうお手上げ状態で、これなら見なくても同じ事だと白い粉だけを逃げて交わし、混乱のまま研修の時間が過ぎていった。
「瑠里さんは合格です、明日は本番の場所へお越し下さい」
「……はい」
納得いかない顔で返事をしていたが、私の方がどうなってるのか見当もつかず、誰に何を言っていいのかさえ皆無だ。
扉を出し消毒の通路を渡り、シャワーと着替えを済ませると、受付の木村さんはいつもの笑顔で迎えてくれる。
「私……倉稲が全く使えなくなりました」
「そう?甘い物でも食べたら」
今後の仕事に影響するかもしれないというのに、木村さんは変わらぬトーンで動揺も見られない。
倉稲は私にはまだ早いレベルだと分かっているのか、何か策があるのか想像もつかないが、いつもと変わらない表情に少しホッとしていた。
「ちなみに甘い物とは?」
瑠里が待ちきれず聞くと、ショートケーキときな粉おはぎだと返ってきたので、急に足取りが軽くなり指示された部屋に向かう。
テーブルにはお茶とコーヒー、スイーツは容器ごと置いてあるので個数制限はなさそうだし、まずは二個紙皿に乗せて椅子に座る。
「般若のおかげでケーキにありつけたよ、仕事の後は最高だね」
明日からこの忍者とも別行動で、私は孤独に追試を受ける気分だが、美味しいきな粉おはぎが一瞬忘れさせてくれそうだ。
「美味しい……藤井屋じゃないけど、小豆の甘さに癖がないし高い和菓子屋のだよ」
「小豆ソムリエか!貧乏人は二個入りパックだろうと、高級店だろうと美味しく頂きなさいよ」
つい興奮気味に味を伝えようとしたが、瑠里にたしなめられお茶を飲んで席を立った。
次は小豆のおはぎときな粉を一個づつ皿に乗せたが、瑠里はショートケーキを三つおかわりのようだ。
「――食べ過ぎじゃない?」
「帰ったら寝るだけだし、スイーツでお腹を満たされたいんだよ、ちょっとお茶も飲もうかな」
スイーツにコーヒーとお茶でお腹が膨らみ、いつでも寝れそうな筈だったのに、木村さんが入って来る頃には汗だくになっていた。
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