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「お疲れ様ぁ、いっ君も来たよ」
不意に現れたキツネ面に、部屋の扉を閉めておけば良かったと後悔したが、鍵を掛けたとしても突き破ってくるに違いない。
「もしかして検査頼んだの社長ですか?」
瑠里の質問には答えずおはぎを口に運ぶキツネだったが、昨日の態度が一変しいつものノリなのは、これから何かあるという前触れとも思える。
「百合さんの体調を調べてもらおうと思ったんじゃが、全く問題なしでの」
具合が悪いかどうかの検査ならお茶を飲ませる必要はなさそうだが、社長のいう『体調』が何を差しているのか分からないので無言になる。
「でね、ワシの目に狂いはなくいい化け物に成長しててさぁ、期待を裏切らないというかトキめいたというか……」
「……気持ち悪いんだよじじい」
拳を握り立ち上がろうとすると、タイミングよく木村さんが入って来て、社長は素早く背中に隠れた。
「百合安心して、刻印は増えまくって危険な種類もあるけど、倉稲に関しても恐ろしいの出てるから全く問題ないよ」
「何となくヤバそうに聞こえるのは、勘違いでしょうか?」
刻印だけでいうとウチの母も間違ってお茶を飲んだ時に大量に出て、イザリ屋にとって脅威な印もあったらしいが、もう消されて解決している。
今後私達に出るのではと誰かが気にしてた記憶もあるが、そんな刻印を持つ者が味方なら、強みにしかならないと社長は言っていた。
「心配そうな顔せんでも、いつもの般若で大丈夫じゃ、ただ……明日からの本番には参加してもらう」
「はあ?!何言ってるんですか、私は合格してないんですよ!」
相変わらずニコニコしながら恐ろしい事を言い出すキツネに、速攻でツッコミを入れたが、研修所にも連絡済で了承を貰っているらしい。
「そりゃあ進行役は関係ないからいいでしょうが、こっちは実際現場に行くんで、姉に何かあったらと集中出来ません」
「そこも心配せんでいい、内容の説明は明日キムがするから今日はもう帰っていいよ」
口調は柔らかいが何も言わせない空気だったので、渋々帰途についたが、家に近づくにつれ社長に対する文句が零れていた。
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