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微妙に鼻歌でリズムを取りながら、高そうな洋菓子を並べる白いエプロン姿のじじい……は不気味としかいいようがない。
スーツを着ているので結果を一緒に聞く気だと思うが、進行役の須藤さんが来るだけで『おめかし』するのは違和感がある。
他にも誰か来ると想像されるが、たかが新人研修に結果報告とか知らない人が来る等、少々オーバーな気がした。
「これはスージーが来るね」
小さく囁いた瑠里に目を見開いたが、存在すら忘れていたし研修に関係があるかは分からないが、社長のテンションの高さが鼓動を早くしていく。
コーヒーを用意してくれるとやっとエプロンを外し、部屋の前方の席に座り足を組んで恰好をつけている。
「様子おかしいよね」
「女なんかな?スージーめちゃ気になってきた」
マカロンを口に入れながら楽しそうな瑠里に対して、私は早く終わってバスツアーで頭を一杯にしたいとコーヒーを一口飲む。
少しするとドアをノックする音と、木村さんが『よそいき』の声でお見えになりましたといい、社長は勿体ぶった声で返事をしていた。
『いつもこの流れあるよね……』
空蝉屋と初顔合わせした時も、同じような光景を目の当たりにしているので、大人の世界は建て前が必要らしいとドアに目をやる。
まず進行役の須藤さんの顔が見えたのでお辞儀をし、顔を上げると次に現れた人に絶句した。
「えっ……何してるんですか?」
立ち上がってまず口から出たのはそんな言葉で、向こうは何も答えず、こちらをチラ見しただけだ。
「知り合い?」
「スイーツおごってくれたじいさんだよ」
木村さんが来客にコーヒーを準備し部屋を出て行くと、社長はいつものように口を開いた。
「ほぉ――ら、ワシの言った通りだったじゃろ?!返す言葉があるならゆーてみぃ」
アノ時のじいさんはギロリと社長を睨んだが、須藤さんが空気を読み、先に結果を言いましょうと軽く流していた。
「お二人共良かったです、また参加して下さいね」
「……それだけですか?」
社長には喧嘩腰にクレームを言われ、気分を悪くしながら頑張ったのに、そんな一言で終わるなら電話連絡にして欲しい位だった。
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