待望の日帰り湯煙バスツアー

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「お……終わったね」 「そうとも、上層部との面倒なやりとりからも解放され、ようやく温泉に浸かれるって訳よ」 帰り道は肩の荷が下り脱力感はあるが、明日は何もかも忘れバスツアーを楽しむ事が出来る。 家族で何処かへ出かけるなんてほぼなかったし、手伝い等でおじいちゃん宅に行く位なものだ。 小さい頃は遊園地とかにも行ってみたかったし、周りの子供達のようにねだりたかったが、生活環境的に言えないと分かっていた。 たまに食べたおやつはおばあちゃん達が買っていたし、親は休みの日はパチ屋に出かけていたので、妹と山を探検する程度しか遊びもなかった。 「旅行なんて行った事ないね」 「姉さんはバイト先の社内旅行あったよね?」 「……着て行く服買うの勿体ないから休んだじゃん、しかも家族じゃないし」 過去を振り返ると目頭が熱くなりそうなので、話題を変えるとコンビニでお菓子を買い自宅に戻った。 お迎えに出た母と抱っこされてる王子達を見て、ペット二匹は連れて行けないのではと頭を過る。 「ねぇ、イナリ達何処かに預けるの?」 ペットホテルは料金以外の部分で心配が多すぎるので、頼んでいるなら絶対にキャンセルして貰いたい。 「それがね、ハツさんが車に乗せてくれるんだって、だから迎えに来てくれるみたい」 申し訳なくて断ってみたらしいが、木村さんだったとしても、会社にスペースがあると止められていた筈だ。 「でも王子と合流出来るし、がぜん旅行が楽しみになってきたよ」 テレビの間で着て行く服を並べ悩んでいる様子だが、手にはスーパーで買った薄皮饅頭を持っている。 中は黒糖あんで見た目も茶色の小さめサイズだが、美味しいし値段を考慮すると、少々のパサつきは気にならない。 二十個入り二百円なのでたまに自分用に買っているようだが、ペースが早すぎておすそ分けにはあやかれそうにない。 「明日は朝六時に王子の迎えと、ツアーの集合時間はバスターミナルに七時だから三時位に起きる?」 「いや早すぎでしょ!せめて五時にして」 母は普段から漁師並みの時間に起きているので問題はないが、私達は夜勤の仕事なので朝には弱い。
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