聖夜の食事

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まさか見られていたのかという嫌な予感はしたが、あの席からここは微妙に見える気がする。 おまけに全く意識してなかったので、一部始終見られ酒のつまみに話題に上がっていたかもしれない。 母も口元を拭いてお辞儀をしていたが、そのまま着席するとここに来るのは分かっていたので自らが移動しお礼を言う事にした。 「あの、プリン有難うございます」 「とんでもない!券が余ったので仕事帰りに寄りましたが、声をかけるタイミングが見つからなくて」 社長がそう言った直後に啄がプッと吹き出していたが、偶然居合わせたおかげでプリンを食べれる事になったので良しとしておく。 「スゲェ迫力あってウケた、いい物見せてもらったよ」 「貧乏家族を覗き見してんじゃないよ、セレブボンレス」 「なっ……!?」 クリスマスということもあり、少し持ち上げ気味にコメントしたので即座の返しがみつからないようだ。 メンバー的に恐らくキツネ面が駄々をこねて連れて来られたという所だろうし、これ以上長居は無用と踵を返した。 「大晦日は午後の七時だからのっ、待ってるぞ」 「えぇ、楽しみに……指折り数えておきます」 まだお会計もしてないし、本音を言って券を返せと言われても困るので、背中を向けたまま適当に答えて小走りに席に戻った。 「ここのプリン結構美味しい」 「百円寿司のより飾りのクリームも多めだよ」 もう何も入りませんという感じだったのに、きちんと完食しているのはさすがとしか言いようがないが、確かにここのプリンも美味しそうだ。 イヴとは全く関係なく、今年も近所の焼肉でたらふく食べ、デザートにプリンのおまけつきだ。 社長の気が変わらない内に会計を済ませようとレジに向かい、ガムを三枚貰うと噛みながら軽自動車に向かったが、空からはチラチラと雪が降り始めた。 「さぶっ!暖房強めに入れてよ」 寒がりの私達はコートのフードを被って小刻みに震えていたが、我が家の軽は予算通りの小ぶりなのですぐに車内が暖まる。 「ニンニク臭も広がってるね」 前席の二人から暖房の風に乗り、臭い匂いがくると鼻をつまんでいた。 ドラム缶は少し窓を開け、哀愁ただよう表情になったので『来るぞ』と心の中で思った。
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