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聖夜の食事
「社長待ってるから、挨拶して帰ってね」
「あっ、はい!」
予約済の二ホールとリーダーからのホールケーキも手に入れ、気持ち的にホクホクの私達は、足早に帰ろうとしたがそうは問屋が下ろさなかった。
別室で待っていた社長は、ガラス部分から姿が見えている筈なのに、あえて気づかないフリをする白々しさがウザい。
一応仕事納めになるので、最後くらいは付き合ってやるかとドアをノックした。
「はい……どうぞ」
全部見えているにも関わらず、咳払いするキツネ面に溜め息を吐きながら中へ入った。
「ヘルプも含めご苦労様でした、これ……ほんの気持ちだけど受け取ってくれる?」
バレンタインチョコでも渡すような照れ臭そうな言い方に、呆れた視線を送ったものの封筒だったので、もしやと思い即座に態度が一変した。
「有難うございます、今年もお世話になりましたが来年も宜しく……」
「ちょっと、何か忘れてない?」
「えっ、挨拶きちんとしてますよね今」
何故か社長は気に入らない様子で、私達の表情で頭から抜け落ちてるのを見てとり、答えを自ら言い始めた。
「だからぁ、大晦日はいっ君とのゲームがあるじゃん」
「――えっ、まだ参加しないとダメなんですか?」
私達の後には和音さんが入ったが、彼は既に複数の刺繍を持っており、新人扱いにはならない。
毎年同じ刺繍チームで初詣に行くのだが、新人はその前に仕事を終えた社長と一緒にゲームをする事が決まっている。
でも無色から萌葱にランクが上がったのもあり、勝手にナシと思い込んでいたが、狐は納得してないようだ。
「勝ったら景品もあるしぃ、楽しみに帰ってくれるなら、いっ君も気分いいよねぇ」
近所の焼肉屋の商品券で額を仰ぐ社長に、瑠里はいとも簡単に従順になっていた。
「大晦日といえば、忠臣蔵か社長との遊びかっていう位の一大イベントで待ち遠しいです」
変わり身の早さに呆気に取られていると、姉は楽しみ過ぎて言葉も出ないと上手く丸め込まれた。
「そんなに喜んでくれるならコレあげるっ、家族で美味しい物食べて来てね」
楽しみなのはゲームではなく、お食事券だと内心思っていたが、狐は承知の上で構ってもらいたいらしい。
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