恒例行事で腕試し

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恒例行事で腕試し

「じゃあ行ってくる」 「初詣で私の分もお願いして来てね」 休み明けのダルさと顔が痛くなる風の冷たさに踵を返したいが、今から本当の仕事納めというか、社長とのレクレーションが待っている。 「今年も羽根つきかな」 「社長気に入ってるもんね」 今までの新人はリーダー達で、私達に変わってからはずっと羽根つきのダブルスばかりだ。 中々勝負がつかないのもあるが、能力によってプレイ方法が違うのは微妙に納得出来ない。 瑠里は防御メーンの攻撃型で、私は攻撃メーンのオールマイティ型だが、羽子板を手で持つのを禁止され稲腕(いわん)で板を宙に浮かせプレーしなければならない。 初参加の際いきなり聞いたのに出来ない事を小馬鹿にされ、キレて操れるようにはなったが、ぶっちゃけ遊びというよりはトレーニングの気がする。 新人とのコミュニケーション目的は分かるが、キツネ……いや社長とは接する機会もあるので余計な恒例行事だと思うが、雇われの身なので従うしかない。 受付にはいつものように木村さんが立っていたが、私達の顔色が暗かったのか、初詣まで終わったらぜんざいがあると励ましてくれた。 小豆好きの私は少しテンションが上がり、ロッカーで着替えを済ませ指示された扉の前に立った。 「……瑠里、何だか嬉しそうだね」 「うん、だって勝負に勝ったら好きな物買って貰えるんだよ?貧乏人への配慮この上なしじゃん」 そう言われると一瞬オイシイ話に思えるが、恐らくリーダーに今年代わってくれと言っても断られるに違いない。 瑠里を先頭に中に入ると社長のストレッチを八雲さんが手伝う光景が見え、また審判はこいつかと顔が強張った。 「早く来てくれるとは、やっぱ楽しみだったんだね、会いたかった『いっ君』はここだよ」 「いえ、時間に遅れるのは嫌なだけです」 焼肉の券を使った後の妹は、いつもと変わらないクールさだったが、貧乏人らしい正直な態度に吹き出しそうになった。 「ほほっ、照れおって!それでは今年のゲームじゃが忍者探偵Xごっこです」 私は唖然としていたが瑠里は拳を上げ、嫌な予感しかしなかったが、まずは審判の説明を待つ事にした。
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