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「バターパン3個にポトフを平らげてましたよ。それよりもほら、お客さん!」
「おぉ? これはこれは、どうも。……どちら様だったかのう?」
想定以上にダメだ!
研究に行き詰まったから、こやつの補助魔法について聞かせてもらおうと思ったが、それ以前の問題である。
それからというもの、ワシは4度の自己紹介をし、空腹だという嘆きを5度聞いて、家政婦さんのため息を7度聞いてから家を後にした。
かつては大陸中の婦女子を魅了した男も、こうなっては形無しである。
「老いは、全てを覆い尽くすのか」
帰り道にそんな呟きが溢れた。
まだ明るい時間であったが、不思議と周りの景色が暗い。
その日差しでさえ間もなく落ち、やがて夜になるだろう。
ーー夜が来る。
そんなものは何千回と体験した日常であるが、今ばかりはそれが恐ろしかった。
暗闇が死を暗示するからであろうか。
では日暮れとは、我々老人を象徴するものであるというのか。
「老いとは何か。まるで魂が少しずつ腐食していくようだ」
答えの無い問答が続けられた。
それはいつの間にか、過去を振り返る心の旅となり、思考は深いところへ落ちていった。
『クラスタさん、ここは私に任せてください。門扉など強引に破壊してしまいましょう!』
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