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思わず吹き出しそうになるのを堪えて続ける。
「落合さんのお気持ちにはお応えできませんけど、同じ会社に勤める仲間として、仕事上、良好な関係を築いて行きましょう」
「……俺のこと、許してくれるのかい?」
「ええ」
「ありがとうっ……」
若干瞳を潤ませ、声を詰まらせ、心底安堵したような表情で落合さんがそう囁いた瞬間、『チン』と音がした。
彼の降りるべき階に到着したのだ。
しかしその間が何とも絶妙で…。
「それじゃあ」
すっかり晴れやかな表情になった落合さんは、右手をすちゃっと上げ、颯爽と私の傍らを通り過ぎた。
その後ろ姿を見送っていると、弾んだ足取りで、というかほとんどスキップのリズムを刻みながら廊下を進んで行く。
扉が閉まった瞬間、とうとう我慢できずに私は『ブフッ』と笑いを漏らした。
ただただキザったらしくウザったらしい言動だと思っていたけれど、あそこまで突き抜けていると一周回って何だか可愛らしく見えて来るから不思議である。
プライベートで彼と行動を共にしてみたら、意外と楽しい時間を過ごせるかもしれない。
心が癒されるかもしれない。
現に今、一瞬だけど貴志さんとのいざこざを忘れ、思わず笑いを漏らしてしまったもの。
穴の中で冬眠に入りかけていたメンタルが、ノロノロと地上に這い出して来たもの。
そこで今度は私の目指していた階に到着した。
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