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第19章 好きだから許せない
わたしは無遠慮にもまじまじと神野くんの顔を正面から見入ってしまった。何言ってんの、この人。
「最初、から?…って。…何」
彼と会った初めての時をありありと思い出す。どう考えても何が起こるかも知らされずに不意打ちで巻き込まれた、無防備な部外者。最後まで距離を置いた冷静な立場を保てなくて、どうしようもない自分の欲情を持て余し、恥じるように複雑な表情を浮かべてた。思い返すと今でも気の毒になるくらい。あの時わたしに特別な感情を持ってたなんて全然思えないけど。
彼は碌に口も利けないくらい面食らったわたしの反応には全く動じず、悠然と焙じ茶を一口飲んで答えた。
「まあそれは。あの時具体的に君と結婚することを考えてたって言ったらそれは嘘になるけど」
そりゃそうでしょうよ。
彼は湯呑みをことんとテーブルに微かな音を立てて置いた。それから目を上げてまっすぐにわたしを瞬きもせずに見返す。
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