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「違う」
とだけつぶやた。
「嫌いじゃないのに。どうしてなの」
「その台詞さ、何度も言ったね」
追うように脩ちゃん。不倫は疲れる。脩ちゃんは最後に言った。
「あやちゃん、本当にこれが最後。俺からの最後の言葉」
「なによ」
「もう、別れよう」
明日はクリスマスだ。窓ガラスが曇っていておもての寒さを突きつけられる。
しばらくは沈黙だった。長い沈黙。
「あたしね、別れなんて来るなんて思っていなかったの」
「ん?そうか。だって、別れはさ絶対にやってくるんだ」
「でもね、脩ちゃん、あのね、」
あたしは少しだけ饒舌だった。もうこれで会えないけれど、これで楽にもなれ前に進める。
「じゃあ、行くわ」
脩ちゃんが立ち上がった。あたしも立ち上がって、その背中を追う。
「待って。少しだけ。こうさせて」
背中に腕を回し、脩ちゃんの最後を感じ取る。監督の匂いがした。
脩ちゃんが帰っても涙は出なかった。もう散々泣いているから涙の在庫が切れたのかもしれない。
「別れの言葉をありがとう」
すでに日にちを跨いでクリスマスになっていた。
「別れよう」あやふやな毎日を死んだよう過ごしてきたが、もうそれは無くなった。
脩ちゃんはあたしに最低で最悪で最高のプレゼントをくれたのだ。
「別れよう」
と、いう言葉のプレゼントを。
あたしは前に進める。きっとこの先また恋をする。それがまた脩ちゃんかもしれないし、他の誰かかもしれない。
「あ、」
空から白いものが降りてくる。
ついでに初雪のプレゼントなんて。あたしは、漆黒の闇から無垢に降りてくる白い雪を見つつ、寒っ、と言いながら、脩ちゃんが以前忘れていったカーディガンを羽織った。
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