第一章 追憶と再会

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 火照った体を冷ますには、冷水が丁度良い。情事の余韻を醒ますのにもうってつけだ。 (ひじり)は男に愛された全身をくまなく洗い流す。口の中、そして全身、更には 花肉・花芯まで。 シャワーを全開にして頭から水を浴びると、まるで滝行をして身を清めているような 錯覚に陥る。  男に愛された痕跡を残す訳にはいかない。その為の(みそぎ)のようなものだ。 左手の薬指には鈍く光るプラチナの指輪をはめたのをしっかりと確認する。  浴室から出ると、キッチリと紺色のスーツに身を包んだ男が待っていた。ベッドに 腰をおろし、ボーッとテレビを見ている。普通のニュース番組のようだ。彼の左手 薬指にも、銀色のリングがしっかりとはめられている。    12月初め。今日は風が酷く冷たい。聖はグレーの毛糸の帽子を目深に被り、サングラス をかける。ワインレッドの二ットワンピースの上に、黒のカシミアのコートを着た。 男も黒のコートを羽織る。二人は静かに部屋を出た。男は聖に手を振ると、足早にホテル を後にした。男の名は源和真(みなもとかずま)。これから仕事に戻るのである。    聖はゆっくりと後から外に出る。左手首の腕時計を確認する。時刻は午後二時過ぎ。 どこかでランチでも済ませて帰ろう、と最寄り駅の駅ビルを目指した。開道聖 《かいどうひじり》は専業主婦。ホテルを出た瞬間から良き妻、そして良き母親へと戻るのである。
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