第三章 罪悪と獣欲の罠

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『性欲と食欲って似てると思うわ……』  清夏(さやか)は夫を会社に、娘たちを学校に送り出した後、朝食の後片付けをしながら思う。 『夫は細身のわりによく食べる。味付けは素材の味を生かしたシンプルなものを好む。煮込んだ豚の角煮より、豚肉のブロックを茹でるか焼くかして岩塩をつけて食べるとか。 魚もそうね。塩焼きを好む。もしくは刺身。野菜も生を好む』  朝食で余った茹でた鶏肉の笹身を、自分の昼食に食べようと別の皿に移し替える。結婚当初、手の込んだ料理を出しても、出されたものは残さず食べるが、何も言わずに無表情でいるのが不可解だった。口に合わないのだろうかと悩み、夫が仕事に行っている昼間、料理教室に通ったりもした。 「うふふふっあははははっ」  耐え切れず声を上げて笑う。思い出したのだ。料理教室で習った料理を丁寧に作っても、何も言わずにただ黙々と食べる夫に、 「もしかして、私の料理、口に合わない?」  と思い切って聞いてみた時の事を。すると彼は物凄く困ったような顔をして 「ごめん、あんまり一生懸命作ってくれてるから、申し訳なくて言えなかったんだけど。僕は……実は至ってシンプルな料理が好きなんだ」  しばらく沈黙した後、思わず拍子抜けして大笑いしてしまったのだ。それ以来、些細な事でもどんどん話し合って行こう、となっていった筈なのに。どこかでボタンを掛け違えてしまったらしい。 『彼、本当は性欲旺盛。荒々しいのが好みなんじゃないかしら』  と分析する。シンプルかつ豪快な料理を好む事から推測したのだ。食器を洗い終わると、取りあえずリビングへ向かう。ソファーにゆったりと腰をおろすと、テーブルの上のスマホを手に取った。そして不倫略奪掲示板「ら・まん」にアクセスをする。  そもそも、その掲示板に行き当たったのは、夫の不倫相手を知るべく探偵を雇うかどうしようか悩み、色々検索している内にヒットしたからだ。
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