第一章 追憶と再会

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『不倫などではありません、これは純愛なんです!』  思わず苦笑してしまう。危うく口に含んだミントティーを吹き出すところだった。 時刻は午前10時を少し過ぎた頃だ。夫は会社に、息子は小学校に送り出し、一通り家事 を終えて一息ついていた。テレビは何かと話題になるニュース、または芸能人のスキャ ンダルがメインになりやすい時間帯である。  そのセリフは、ここ一か月ほど不倫騒動で話題の設楽華代(したらはなよ)48歳。 若い頃から恋多き女と名高く、バツが6つ。今回で7つめとなりそうである。いずれも 妻子ある男優、または一般人の経営者、歯医者から略奪婚だ。毎回不倫が発覚する度に 『不倫などではありません、これは純愛なんです!』  と言うセリフを叫ぶ。有名セリフとして根強い流行を見せる。最近では、気軽に不倫 を楽しむ主婦が増えてきているとかで、その台詞が好まれているせいだ、という話で あるが、それは本当かどうかは疑わしい。 ……ついこの間までは、不倫や略奪に嫌悪感さえ抱いていたのに……  聖は和真と再会した三か月前を振り返る。その時までは、 「不倫は不倫よ。どう考えても純愛な筈ないでしょう! 別に不純な愛で良いじゃないの。悲劇のヒロインに浸って相手の奥さんや子供を悪者にしてるんじゃないわよ!」  とまで感じるほど異性に対しては潔癖だったのだ。
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