第一章 追憶と再会

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 幼い頃、鈴蘭の花を花屋で見て以来その花が大好きになった。純白の小さな鈴のような 花が連なり、深い緑色の葉に守られるように咲く風情。俯き恥じらう乙女のように清純で 可憐だ。少し大きくなって、花言葉がある事を知る。鈴蘭の花言葉は「謙遜」「純粋」 「無意識の美しさ」「平穏」「リラックス」「再び幸せが訪れる」「純愛」との事で、ピッタリのイメージではないか、と感激した事を今でも覚えている。  そして別の名を「谷間の姫百合」または「君影草(きみかげそう)」と言う。どちらも 葉に守れられひっそりと佇む大和撫子を感じさせる。ヨーロッパでは「聖母の涙」とも 呼ばれているそうだ。「君影草」と言う名前が妙に気に入った。 ……君影草のような女の人になりたい……  本気でそう決意したのは、確か小学校6年の卒業式だ。学校から卒業祝いに、鉢植えの 君影草を頂いてからだ。ピュアで清楚で控えめな中にも凛とした強さを秘めた女性を 目指そう。間近で可憐な白い花を見ながら強くそう感じた。  元々一人娘という事もあり、両親から異性との交流についてはかなり厳しくしつけ られてきた。そのせいか高校性になっても、大学生になっても、異性に全く興味が 無かった。  友達が誰それがカッコイイだ、誰が好きだ、誰と誰が付き合ってるだの、思春期の 女の子特有の恋バナも、ちっとも面白いと思わなかった。ただ、器用に笑顔で話しを 合わせる事だけが上手くなっていった。  そんな感じだったから、彼女がいる人からの略奪やら、まして結婚している人の 不倫などは特に不潔で極めて反モラルに思えた。言い寄って来る男子は何人かいたが、 全く食指が動かなかった。
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