エレナの七変化

3/12
前へ
/197ページ
次へ
「ただいま車いすをお持ちしますのでお待ちいただけますか?」 アテンダントが慌てている。 エレナは夫の腕をバーのようにして両手でつかみ老婆のように前方へ体が傾斜させていた。 腰を支える夫は 何やらエレナに向かって必死に支持を出すが、それがどんな内容か聞きとめる力さえない。 彼女に出来ることは 風になびく自分のスカートの布の一点に視線を留め 溢れる涙を床に落とすこと。 「若奥様、こちらにおつかまりください。」 迎えに来たドーソン家の執事の声が聞こえた。 その場のすべての手を借りてエレナは車いすに身を預けた。
/197ページ

最初のコメントを投稿しよう!

484人が本棚に入れています
本棚に追加