普通、特殊、普通

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 六人で徒競走を走れば、毎回三位だった。テストを受ければ必ず平均点で、それよりも高かったり低かったりした時は少し嬉しかったくらいだ。いつも、どこで何をしても良くもなく、悪くもない。十二時きっかりに腹がグゥと鳴って、ふらっと飯屋に入ると、その店は絶対にアタリでもハズレでもない。十九歳現在、身長は一七○・九センチ。日本人男性の平均身長だ。体重は、平均よりも少し軽い。これは自慢だ。この調子でいけば童貞は二○・三歳で捨てられるはずだ。  山田太郎。俺の名前だ。名前も普通だ。なぜ俺の両親は山田という姓がありながら、太郎という名前をつけてしまったのか。  小学生の頃、自分の名前の由来を聞いてこようという宿題が出た時にその理由を父親に問うたことがある。 「普通だから」  と言われた。幼心に「マジか」と思った。普通だからなどという理由で子供に名前をつけるな。その時は腹が立ったが、父親を責めたり、罵倒したりは一切しなかった。反抗期の平均年齢は、十三歳だからだ。  ちょうどその頃、同級生に、辺銀飛雄馬という名前の男がいた。苗字はペンギンと読む。名前は言うまでもなく、ひゅうまと読む。親父が巨人の星のファンだそうだ。当時の俺は、彼が羨ましくて仕方がなかった。初めて授業をする教師が出席を取れば、決まって訝しげな表情で 「ヘン……悪いけど読み方を教えてくれないかな」  と言った。それに対して辺銀飛雄馬は、やれやれといった顔で答える。 「ぺんぎん、ひゅうま、です」  と。教師によっては何度か聞き返すこともざらにあった。     
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