普通、特殊、普通

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 これが羨ましくて仕方なかった。俺も名前の読みを聞かれ、その都度ため息と苦笑を漏らしながら、みんなに教えてやりたかった。しかし現実は、普通に呼ばれて、普通に返事をするばかりだった。悔しかった。  そのうち、名簿の中の辺銀飛雄馬という文字の上には赤文字で読み仮名が書き加えられた。  辺銀飛雄馬は名前以外も特殊だった。まず、左腕がサイボーグで、ナントカ合金とかいう金属で作られていた。その左腕はなんだってできた。リンゴを握りつぶすことも、立てた爪楊枝の上に一円玉をおくこともできた。右手は本当に何もできないが、虹色だった。砂埃が舞う夏のグラウンドで、彼の両手がそれぞれ違う色にギラギラと輝いていたのをよく覚えている。虹色の右手は、辺銀飛雄馬がエロいことを考えた時だけ真っピンクになった。辺銀飛雄馬は眼球にまつ毛が入って苦しんでいる女子生徒に興奮するので、そういう状況になった時は必ず真っピンクになっていた。あと、背中に透けたブラジャーの線でも真っピンクになっていた。飢餓寸前のような体型の、おっさん数学教師の背中に水色のブラジャーが透けていた時は、なぜかヒョウ柄になっていた。理由はわからない。なぜなら山田太郎は普通人間で、辺銀飛雄馬は特殊人間だから。お互い分かり合えないのだ。     
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