普通、特殊、普通

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 その後、辺銀飛雄馬は唐突に髪がメチャクチャな天然パーマになって、白目と黒目が逆転した。噂ではすね毛がイタリアンだそうだが、真偽は不明だ。それから、中卒でハーバード大学に入学して、今は東ティモールで刺身のタンポポを悟ったらしい。  「東ティモール」で「刺身のタンポポ」を「悟った」。本当に意味がわからない。意味がわからなくて羨ましい。彼は特別な人間だ。  彼になってみたい。平凡でない人生を見てみたい。    窓の表面にはすっかり結露たちが元気を取り戻し、俺の普通顔は消えていた。またスプレーを吹き、雑巾で拭う。白い水滴が雑巾に吸い込まれ、透明な窓は景色を映す。  そこには「こ」があった。俺は目を瞬いた。「こ」がある。ビルの外には交差点がある。大勢の人や車が行き交う。そこに「こ」がある。コートを着て背中を丸めて歩く人々は、巨大で存在感のある、しかし今すぐにでも消えてしまいそうな儚い、そんな「こ」を無視して、足早に動く。   ぽかんと口を開けて「こ」を眺めていると「こ」は「ん」になった。  俺は気がおかしくなってしまったのだろうか?いや、この寒さのせいで熱でも出たのだろうか?どちらにせよ、しかるべき機関を受診すべきだろう。  やがて「ん」は「ち」になり、「ち」は「わ」になった。  こんちわ。仲のいい友人間では、こういう挨拶する。しかし、俺は窓の外の文字にその挨拶をされた。どう対応するのが、最も普通なのだろうか。 「に」     
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