普通、特殊、普通

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 どうやら、まだ続きがあるようだ。 「わ」 「ち」 「ん」 「こ」  そこで文字は完全に消滅した。    こんちわにわちんこ。  何?  これが漫画や映画なら、神様だか悪魔だか、そういう存在から何かメッセージや指令を伝えられるシーンだ。たぶん。少なくともそれなら、今こうして指示された通りにビルで清掃のアルバイトをしているように、その指令の通りに動けばいいだけだ。  しかし、俺に見えたのは「こんちわにわちんこ」だった。「こんちわ、庭ちんこ」なのか、それとも「こんち、鰐わちんこ」なのか、「こんちわ、二羽ちんこ」の可能性だってある。どれも意味はわからない。マジで何?  父親に名前の由来を教えて貰った時よりも、複雑な気持ちになっている。 「おい、君」  後ろから声をかけられて、俺は振り返った。 「ご苦労だね」  このビルで働く社員だろうか。ちょうど父親くらいの年齢の男は恰幅が良く、右手で口ひげを撫でながら、俺に缶コーヒーを差し出している。その太い首からは名札が下げられていた。名前は、邪答院エドワード。赤文字で「けいとういんエドワード」と読み仮名が付け足されている。  今にもぶっ倒れそうだ。なんだか眩暈もしてきたような。 「よかったら、飲みなさい」     
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