普通、特殊、普通

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 男はファファファ、と変な声で笑った。俺はふらつく頭を無理やり起こし、言われた通りに缶コーヒーを受け取る。 「ありがとうございます」  しかし、俺はぎょっとしてすぐに動きを止めた。  丸出しだった。男の、陰茎が。開かれたズボンのチャックから、完全に出ている。 「どうかしたかね?」  男が眉間にしわを寄せ、俺と同じ表情をする。 「あの、出てますよ、その」  俺は言葉を選びながら思った。山田太郎で良かった、ちんこ丸出し邪答院じゃなくて良かった、と。普通でいることが一番なのだ、と。 「失礼、私の鰐がこんちわしていたようだ。ファファファ」  鰐、こんちわ、ちんこ……。  それに気付いた俺はいてもたってもいられなくなって、大声で叫んだ。 「回文!」  窓の結露に指を滑らせ「こんちわにわちんこ」と、興奮した荒っぽい字で書いた。男はそんな俺をキョトンと見つめていた。 「こんちわにわちんこって、回文っすよね!」 自身の文字を見て、予感は確信に変わり俺の興奮は絶頂に達した。 「君は、相当な変人だね」  男がそう言ったので、俺は笑った。どんどん意味がわからなくなって、思い通りでなくなったから、笑ったのだ。 「アイ、アム、山田太郎!」  帰って熱を測ったら、三十八度を超えていた。
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