1人が本棚に入れています
本棚に追加
男はファファファ、と変な声で笑った。俺はふらつく頭を無理やり起こし、言われた通りに缶コーヒーを受け取る。
「ありがとうございます」
しかし、俺はぎょっとしてすぐに動きを止めた。
丸出しだった。男の、陰茎が。開かれたズボンのチャックから、完全に出ている。
「どうかしたかね?」
男が眉間にしわを寄せ、俺と同じ表情をする。
「あの、出てますよ、その」
俺は言葉を選びながら思った。山田太郎で良かった、ちんこ丸出し邪答院じゃなくて良かった、と。普通でいることが一番なのだ、と。
「失礼、私の鰐がこんちわしていたようだ。ファファファ」
鰐、こんちわ、ちんこ……。
それに気付いた俺はいてもたってもいられなくなって、大声で叫んだ。
「回文!」
窓の結露に指を滑らせ「こんちわにわちんこ」と、興奮した荒っぽい字で書いた。男はそんな俺をキョトンと見つめていた。
「こんちわにわちんこって、回文っすよね!」
自身の文字を見て、予感は確信に変わり俺の興奮は絶頂に達した。
「君は、相当な変人だね」
男がそう言ったので、俺は笑った。どんどん意味がわからなくなって、思い通りでなくなったから、笑ったのだ。
「アイ、アム、山田太郎!」
帰って熱を測ったら、三十八度を超えていた。
最初のコメントを投稿しよう!