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暫くして、竹一様は帰られたのですが、縁側にさいの目が転がっていて、忘れていかれたのだと思い私は後を追いました。
そんなに遠くには行って居られないと小走りでお屋敷を出ると、案の定、角を曲がろうとする竹一様のお姿がありました。私は声を掛けようと口を開けたのです。
私は何が起こったのかわかりませんでした。言葉を失い口を開けたまま、目の前が真っ白になりました。
二人の男が小さい竹一様を取り囲み、刀を大きく振り上げていたのです。竹一様は地面に尻餅をつかれ逃げることもできなくなっていました。
咄嗟のことで気が動転し、私は「キャー」っと大声を上げていました。私の声に反応した二人の男は、手元を止めこちらに振り返ります。
私は竹一様を助けないといけないのですが、身が硬直して動けなくなり、私の腰は吸い付くように地面に落ちていったのです。
「竹一!!」
動けない私の横を誰かが物凄い速さで駆け抜けて行きます。刀を振り上げて走り去るその後姿は、他の誰でもない旦那様でした。
そして前方からも人が現れ、旦那様と挟み撃ちにされます。そしてあっという間に、竹一様を襲おうとした二人の男は切られていました。
前から現れた人影が、竹一様のお屋敷にいる佐吉さんだと分かるのに時間は掛かりませんでした。旦那様は佐吉さんに竹一様を任せられ、腰を抜かした私のところに来られました。
そして、今までみたこともない表情で、私を掬うように抱きしめられました。
「良かった」
旦那様の涙声を聞いたのは、これが最初であり最後でした。
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