人助け

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「琥珀ちゃん、おはよう」 普段は誰にも話しかけられない私に、そんな声がかけられた。口から飛び出しかけていた欠伸が喉の奥へと吸い込まれた。振り返ると、穏やかな笑顔の時雨さんがいた。 「おはようございます…」 「そんなに かしこまらなくても。面白いね、琥珀ちゃん」 ふふふ、と微笑む時雨さんに、私は恥ずかしさで顔が紅くなっていくのを感じた。時雨さんは大人っぽくて落ち着きがあるし、顔だってカッコいい。私が時雨さんを直視出来ないのは、身長差だけのせいじゃない。 「時雨、柊!おはよ!」 雪暮さんだ。昨日と変わらない、明るい笑顔を浮かべている。時雨さんと私が返事をすると、ふわぁっ、と大きなあくびを漏らした。輝きを称えた瞳にぷくりと水が浮かぶ。 「眠そうだね?寝不足?」 「んー、そんなとこ。…実はさぁ、“ 柊 また来てくれるかな ー” とか “ 友達なれるかなー” とか考えてたら朝になってて」 また1つあくびをして雪暮さんは笑う。私と似たような事を考えていた雪暮さんに、少し笑ってしまう。微笑んでいた時雨さんが、ちらりと私を見た。 「笑い声、可愛いね。やっぱり笑ってた方がいいよ」 うっ。反則です、時雨さん…。思わず時雨さんから顔を背け、深呼吸をする。あんなにじっと見つめられたら、さすがに恥ずかしすぎてツラい。 「………何か今、イラッときた」 むすっとした声で雪暮さんが呟く。何故か急に不機嫌になってしまった雪暮さんに、私は少し首を傾げた。急にどうしたんだろう?そっと時雨さんを見上げると、小さく肩をすくめて微笑まれた。時雨さんにも理由は分からないみたい。 学校に到着してからは、人気者の時雨さんや雪暮さんは同じ学年の人と合流し、私は自然と1人で教室へ向かった。誰も私に話しかけない いつもの教室で、私だけがいつもと違ってわくわくしている。放課後になったら、昨日の皆に会える。受け入れてくれるか どうかは 分からないけど、会えるだけで嬉しい。授業がすごく長く感じた。 HRが終わると、私は教室を飛び出した。一直線に あの駄菓子屋へ走る。そう近くはないけど早く着きたい。足は速くないけど歩くよりは速い。鉄みたいな味が込み上げてきたとき、やっと駄菓子屋が見えた。
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