316人が本棚に入れています
本棚に追加
(コンビニ店員中村誠語り)
金曜日の夜11時30分。
なごみさんの姿を半年ぶりに見た俺はテンションが上がっていた。夏ぶりだから、本当に久しぶりだ。
スーツ姿を初めて見た。
背筋がシャンと伸びてかっこいいな、よく似合っていると思った。でも、少し痩せた気がする。仕事が忙しいのだろうか。
なごみさんは、店内に入り奥で飲み物を取り出した。
そこで、よろっとよろけたのが目に入り、ハラハラした。よく見れば歩きかたもおぼつかない。
俺はとっさになごみさんの元へ駆け寄った。
「大丈夫ですか?」
顔が真っ青だった。
何かを言いかけたけど、言葉にならないみたいで、深呼吸するように促したが、苦しそうだった。
なごみさんからふわっといい匂いがした。少なくとも野郎の香りではない。だけど女の人のものとも違う。
俺はその時、たまたま居た店長の計らいがあり、バックヤードで休んでもらうことにした。
「すみません。ちょっと寝不足で。」
なごみさんの柔らかで素敵な声を間近で初めて聞いた。休憩用の椅子に腰掛けて、一緒にお茶を飲んだ。
「お仕事忙しいんですか?」
聞くと、恥ずかしそうに笑う。
「ええ。ほとんどこの時間です。」
大変なんだな。サラリーマンって。俺は学生だから、分からないや。
分かってあげたいのに……。
何を話そうか、何を言えばこの人が快く感じてくれるのか頭だけがぐるぐる回って口が動かない。
「ここのバイト頑張ってますね。前に来たときも居ましたよね?」
びっくりして声を上げそうになった。
俺のこと……覚えててくれたんだ。
なごみさんが……俺のこと……。
「あっ……はい。ありがとうございます。」
ありきたりのことしか言えなかったが、うれしかった。興奮して今日は寝れないかもしれない。
この後なごみさんは、少し休憩してから深々とお礼を言って帰って行った。
また来てくれるといいな、と思った。手に残った彼の感触を忘れないようにギュッと握った。
最初のコメントを投稿しよう!