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(なごみ語り)
大野君のお母さんは、凄くいい人だった。
まるでファミリードラマに出てきそうな優しくて明るいお母さんそのものだった。
僕は母親というものがイマイチよく分からない。ドラマに出てくるお母さんと、僕の母とは実像がかけ離れすぎているからだ。
だから、大野君のお母さんと僕の母は、『母』という名称こそ同じものの、中身は全く違った。
雪絵さんと呼んでほしいと言われたので、遠慮なく呼ばせていただく。
雪絵さんとの店番は楽しかった。大野君を作る基礎の部分が分かった気がする。
礼儀正しくて、笑顔が絶えない。
それでいて、彼女は場を和ませる何かを持っていた。まるで大学生の時に初めて諒の実家へ行った時と同じような感情を覚える。彼を包む全てが愛しく思えるような、あったかい気持ちだ。
「………それでね、隼人ったらね、部屋でキスしてるのを私に見られてね、ふふふ、顔が真っ赤だったわよ。今思うと傑作なの。」
雪絵さんが大野君が初めて彼女を連れてきた話をしてくれた。
お約束の飲み物を届けようとドアを開けた時、大野君が彼女とキスをしていたらしい。
大慌てな高校生の大野君を想像して笑った。
たぶん、ちょっと泣きそうにもなっただろう。
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