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(なごみ語り)
「……なごみさん、何楽しそうに笑ってんすか。」
後ろで作業を終えたらしい大野君がただならぬ雰囲気で仁王立ちをしていた。
「あら、隼人。梅のお茶会のお菓子は終わったの?今ね、洋一君にね、あんたが高校生の時に彼女とキスしてた話をしてたのよ。」
「なっ、母さん、な、なんでそんな話をするんだよ。なごみさんも洋一君とか呼ばせて仲良くしないでください。これから配達ですから、一緒に来てもらえますか。量が多くて1人で運べないので手伝いをお願いします。」
「わかった。雪絵さん、ありがとうございました。また色々教えてくださいね。」
エプロンを外し畳んでから雪絵さんへ渡すと、彼女はにっこり微笑んだ。
「いいえ。洋一君は聞き上手で可愛いから、いくらでも話せそう。配達後は夕飯を食べに戻ってきてね。ご馳走作っとくから、気を付けて行ってらっしゃい。」
雪絵さんとお兄さんに見送られて、僕たちは『梅を愛でる会』の会場へ向かった。
お店のバンを運転しながら、大野君は少し拗ねている様子に思えたので、慌ててフォローした。
「大野君のお母さんは素敵な人だね。お話も面白かった。だから、そんなに怒らなくてもいいんじゃないか。」
「どこがですか。息子の汚点話を自慢げに話す母親ですよ。俺が恥ずかしいっつうの。ああもう情けない。思春期の失敗を披露されるこっちの身にもなってください。」
大野君は不貞腐れながら、ハンドルに顎を乗せて呟いた。それでもやっぱり大野家はあったかくて僕には羨ましく思うのだった。
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