揺れる乙女心

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(なごみ語り) 風が吹くと梅の花びらが舞い、まるでひらひらと雪が降っているように見えた。 辺りは段々と暗くなり、お茶会に参加する和服姿の婦人がちらほら姿を現し始めた。 今夜はライトアップして梅を見ながら、お茶を頂いて食事を頂くそうだ。 「大野君、本当に綺麗だ。毎日営業マンのワガママに付き合わされて干からびた心が潤っていく。こういうのは大切だね。」 僕の膝に1枚の白い小さな花びらが舞い降りた。それを手にとって眺める。まるで赤ちゃんの爪みたいに小さくて透き通るようだ。 「誰のことですか。まさか、俺じゃないでしょうね。俺はなごみさんに迷惑をかけないように頑張ってるんですからっ」 「営業マン全般のことだよ。大野君は最近僕に頼るのをやめたんでしょ。こそこそ誰かに電話してるの見かけたし、だからもう僕には関係ない。」 あの時感じた寂しい気持ちを紛らわすかのように、ワザと意地悪に返すと、大野君は言葉に詰まったように黙った。 「だから、それは………」 「気にしてないからいいよ。あーあ、僕も梅を愛でたいなあ。寛人さんも来たら良かったのに。」 空を仰ぐと、遠くの方でカラスが飛んでいるのが見えた。夕焼けが色濃い夜を連れてきていた。梅も良かったけど、海鮮丼も食べたかったなとぼんやり思う。 何もかも中途半端で毎日が終わっていく。 「なごみさんっっ。」 その時、突然大野君がものすごく大きな声で僕の名前を呼んだ。隣の僕は一瞬何が起きたか分からず、遅れて耳がキーンとする。 「ちょっ、大野君、うるさい。」 あまりに大きな声を出すものだから、周りの空気が止まり一気に注目を浴びた。 それを気にもせずに大野君は静かに続ける。 「………あなたは……どうしたら……俺に興味を持ってくれますか。いつも仕事で迷惑を掛けているから、自分でどうにかしようとすると、関係ないと嫌味を言う。好きだと伝えてもはぐらかされる。 俺はどうしたらなごみさんの目の中に移りますか。もう分かりません。教えてください……」 最後の方は声が掠れてうまく聞き取れなかった。これは、大野君の真っ直ぐな気持ちを見て見ぬ振りしてきた僕への罰だ。 いつも笑って受け止めてくれる彼に甘えていた。 そして……大野君に惹かれてる自分がいることに、はっきりと気付かされたのだった。
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