揺れる乙女心

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(なごみ語り) 僕は項垂れている大野君の手を軽く握った。 こうやって一緒にいる時間が増えたら、間違いなく彼のことを好きになるだろう。 でも、僕には渉君がいる。傷心の僕に寄り添って助けてくれた。渉君を決して悲しませてはいけない。 僕は心の蓋を無理やり閉じて、握っていた手を離した。 「あのね、僕はゲイなんだ。男の人が好きで、恋人も同性だった。異性としか付き合ったことのない大野君とは違う。だから……」 このまま続きを言ってしまっていいのか考えあぐねて、途中で言葉が止まる。 「だから俺の気持ちには応えられないですか。そんなの断る理由にもなりませんよ。なごみさんは、待鳥先生と付き合ってるんですよね。」 「えっ、何で知ってる……」 大野君が知っていることに驚く。 「この間、牽制されました。僕の洋ちゃんに近づくなって遠回しにはっきりと言われましたよ。 今まで誰と付き合っていたかとか関係ないじゃないですか。俺は、なごみさんが好きなんです。 なごみさんはどう思ってるか教えてください。 もし……俺に気持ちが少しでも無いなら諦めます。」 「え、あ、うん……」 大野君が真剣な目で僕を見つめる。 梅の風が柔らかな彼の髪をふわりと揺らした。 ほら、言えばいいのに。君には全く気持ちが無い、ただの後輩だよって。なのに口が動かない。言葉が出てこない。
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