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(大野語り)
結局また振られた。何回目か思い出したくもない。
大声を出して大人気なかったと反省する。
手を握られた時、もしかしたらと期待した自分を恥じたい。今度こそもう見込みがないと感じて、長いため息が出た。振られても元の関係でいたいとか、俺も往生際が悪いと思う。
本当に典型的な重い男そのものだ。
所詮、男を攻略するなんて無理な話だったんだ。元カノ佐々木さんみたいな女の子と付き合うほうが楽なのかもしれない。想いをぶつけて怪我をするよりも、最初から俺を好きな人と恋愛をしてみようか。
それも想像しただけで疲れそうなので止めておく。そもそも楽かどうかで決めることでもないだろう。
当分はそういう色恋沙汰はいらない……
番重を受け取り、庭園を後にした。
終始なごみさんは無言だった。涙の跡がいつまでも残っていて、思わず指で拭いたくなるが手を引っ込める。
この人は泣き虫だけど、泣いた後が綺麗だ。
無意識に俺を酔わせてると分かってないだろう。
家に帰ると俺の家族が総出でなごみさんを待っていた。母さんや兄貴に囲まれて、いつものなごみさんに戻っているのを見て安心した。
一緒にご飯を食べている時も、送っていく車の中でも、いつも通り会話をしてくれた。
軽い冗談で笑ったりもした。
なんだ、気にしてるのはやっぱり俺だけだったのか、と少しガッカリする。
なごみさんに気持ちを伝えて玉砕したので、取り敢えず暫くは感傷に浸って仕事に集中しようと思った。
寝る前に携帯を確認すると、秘書室の東さんからお誘いが来ていた。丁度いい。愚痴を聞いてもらおう。
東さんはなごみさんとの事を知っているから気が楽だ。俺は了解の旨を返信した。
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