悪い予感

5/6
前へ
/388ページ
次へ
(なごみ語り) 夕方、もぞもぞと起き出し、身支度を整えて渉君と街へ繰り出した。駅へ向かう途中、ほぼ満開の桜の木を見かけた。2人で見上げる桜は何故だかとても憂いを含んでいて、咲く喜びよりも散ってしまう悲しみに胸が切なくなった。 来週はきっとお花見日和だ。 渉君と一緒に行けるといいなと思った。 誰もいない道で手を絡ませながら、他愛もない話に花を咲かせる。 僕は大野君への気持ちを封印した。 忘れるという行為は、意識してやろうと思っても、できるものではないと知っていながら、忘れようと努力した。結局は時間が解決してくれるまで待つしかなく、相変わらず今まで通り接してくれる大野君には感謝しかなかった。振り回して、傷つけてしまった僕は、彼に何かをする資格はない。 唯一恋人と居る時間だけが全てを忘れることができた。渉君と身体を重ねると、ざわざわとしていた心が落ち着いていき、渉君を素直に好きだと思えた。 所詮、僕たちゲイとノンケの大野君は住む世界が違う。彼には素敵な女性が似合うんだ。そう思い込むことにした。
/388ページ

最初のコメントを投稿しよう!

315人が本棚に入れています
本棚に追加