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(なごみ語り)
「もうさ、この際ハッキリ言えばいい。いつまでもウジウジしてると前に進めないよ。
彼の恋人に知られたっていいじゃないか。
梅が満開だった公園で、キッパリと大野君はなごみ君に振られた。ほら、いい加減現実を見ろって。なごみ君は恋人がいるんだよ。君は振られたの。」
僕が口を開きかけた時、東さんが一気にまくし立てたので、その場がしいんと静まり返った。
抉った傷に塩を塗るような酷い口調だった。
「…………お、お前、これはダメだ。第一、征士郎が言うことでもない。酔ってるのか?大野君も気にしないで。こいつは昔っから口が悪くて空気が読めないところがあるからな。おい、この冷えきった空気に謝れ。どうすんだよ。」
「すみません、俺………もう…………」
ヒデさんが慌ててフォローに入るも、時は既に遅く、大野君は勢いよく店を出て行ってしまった。
「あ、待って大野君……」
僕が追いかけようとすると、ぐいと強く腕を引っ張られる。渉君の目が真剣に怒っていた。
「……洋ちゃんが追う必要はないでしょ。そんなの自業自得だし東さんに任せればいい。それより聞きたいことがあるから、座って。」
どうしようも逃げられずに、歯がゆい思いで僕は腰を下ろした。
東さんは大野君を追って外へ出て行き、ヒデさんは店の奥で何やら作業をしている。
店内は僕と渉君の2人きりになった。
「洋ちゃん。大野にいつ告白されたの。僕、知らなかったよ。2人で梅の公園に何しに行ったか教えて。」
「………あ、と……2月の終わりの……」
「もしかして、実家に帰るとか言ってた日じゃない?」
段々と渉君の声が低く、怖いものへと変わっていく。僕はただただ質問されたことに答えるだけだった。
「……………」
「図星か。これは嘘をついたってことでいいんだよね。洋ちゃんは嘘をついて、大野と会っていた。大野に下心があると知っていて会ったんだ。」
全部渉君が言った通りで、間違いは何もない。言葉にすると尚更下世話に聞こえて、自分が情けなくなった。実家の和菓子屋さんの手伝いという説明は渉君には必要なかった。
僕が嘘をついて大野君と会っていたことに彼は激しく怒っているのだ。
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