交差する想い

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(なごみ語り) 「洋ちゃんは気付いてないと思うけど、その日以来、様子がおかしいのは分かっていた。 もしかして実家で何かあったのかなって凄く心配したのに全然違ったみたいだね。 告白されて、大野が好きと気付いちゃったとか? 今更大野に好きだと言っても都合が良すぎるから、僕を求めて紛らせていたんだ。 僕は大野の代わり?何とか言ったら?その通りとか、違うとか。」 「………ごめん……なさい……」 反論の余地もなかった。 渉君には全てを見透かされていた。 「何に?僕に?大野に?それとも誰にでもいい顔をしていたい自分かな。人の好意を逆手に取って、洋ちゃんはずるい。最低だよ。」 「ごめんなさい……そんなつもりは無かったんだ。渉君もちゃんと好きだった。」 謝る度に渉君への想いがこぼれ落ちていく。 代わりにしていたつもりはなかった。 そんなの都合のいい言い訳にしか聞こえない。 渉君に抱かれていると大野君を忘れることができたのは事実だ。じわりと涙が滲んで視界が霞む。 僕は最低だ。沢山の人を傷つけてもなお、ヘラヘラ笑ってここにいる。消えて無くなってしまいたい。 「洋ちゃん。」 優しい渉君の声が胸に響く。 ハッと顔を上げると、にこりと彼は笑った。 初めて見る他人のような冷たい笑顔に、僕はこれから言われる絶望を受け止める準備をした。 「ごめん。もう、今までみたいに君を大切にできないと思う。嫉妬深いから絶対に許せないし、何をしても疑ってしまう。僕は距離を置くとか中途半端が嫌いなんだ。洋ちゃんは僕を見てくれていない。辛いんだ。僕を通して違う誰かを求めていると知ってしまった以上、もう耐えられない。」 「わたるくん………」 「………洋ちゃん、別れよう。」 3ヶ月前、ここで始まった恋は、奇しくも同じ場所で終わった。
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