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(大野語り)
「………東さん、何しに来たんですか。」
「大野君を慰めに来たんだけども。途中か早くなるから見失いそうだった。久しぶりに本気で走ったからさ、ちょっと待って。」
まだ息が荒くて肩が上下している。
普段から運動不足なのだろうか。それにしても見失わずに追いつくって、昔は相当走り込んでいたに違いない。
「慰めるも何も酷いことを言ったのは東さんじゃないですか。あれ、相当きましたよ。先輩じゃなかったら一生口利きません。」
「荒療治みたいな?これで、大野君も前へ進めるね。新転地でも頑張れるよ。なんかさ、いつまでも引きずってる大野君を見たくなかったんだよね。俺からの餞別だ。」
「………知ってたんですか。」
驚いた。すべて知ってた上での行動だったのか。それにしては、別の感情も混ざった様なおかしな叱咤だった。
「おい、社長秘書を舐めんなよ。重要な書類は全部俺に集まる。3日前、稟議書に君の名前を見つけた時は驚いたよ。よく名乗りを上げたね。プロジェクトも途中だし、普通は行こうと思わないよな。」
実は、関西方面に営業専門支社を作ることが決まり、社内で異動者を公募していた。
前々から本社の中でのしがらみや、派閥にうんざりしていた俺は、本社の外に出たくて仕方がなかった。
まあ、いずれは出るつもりはあったけど、タイミングを後押ししてくれたのは、なごみさんだ。
もう潮時だと思わせてくれた。
中途半端な気持ちでいるから、契約書も失くすし、いつまで経ってもパソコンには弱い。事務処理も遅くて寺田さんと課長には毎日のように怒られる。
このままだと、自分が益々駄目になっていくと、漠然とした不安が広がっていた。
そんな日々に区切りをつけたかった。
人間はそう簡単には変わらないだろうが、きっかけにはなるだろうと思った。
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