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(なごみ語り)
席について考えた結果、室長の誕生日は自力で調べるのは無理だと分かった。
人事に関するシステムは、他人を閲覧する権限が僕にはない。社長なら社員のはすべて見ることが可能だろうし、すぐ側にいる室長本人に聞けばいい。なんで僕に聞くんだよ、と心で文句を言った。
「和水君、どうしたの?白勢社長は我儘そうだから振り回されて悩んでる?」
隣の席に座っている同期の八木さんが心配そうに僕に聞いてきた。
八木さんは、入社以来ずっと秘書室にいる女子力の高い子で、ここに来てから何かと気にかけてくれるお姉さんみたいな存在だ。
艶のある長髪がふわりと揺れて、いい香りがする。こういうのに世の中の男子はメロメロなのだろうか。
「八木さんは室長の誕生日を知ってたりする?」
思い切って聞いてみると、八木さんの顔が得意げになった。そう言えば、秘書室の女子は室長には異常な執着を持っている。
「え、なに?和水君も征士郎様に興味持ってくれたの?来週ね、征士郎様の誕生祭をやるから、良かったら来ていいよ。男子がいると盛り上がりそうだし。」
誕生祭……どこかの偉人かデパートみたいだ。毎年そんなのやってたんだ。
たかが室長なのに。征士郎様と呼ばれていることは知ってはいたけど、実際に聞くと背筋に冷たいものが走る。
アイドル並みの人気に室長はなんとも思わないのだろうか。いや、この人達をまともに相手したら色々と終わりのような気がする。クールな室長だからこそ秘書室が成り立つのだ。
「室長の誕生日って来週なの?」
「そんなことも知らないで聞いたの?そう、征士郎様の誕生日は来週の6月15日だけど、それがどうかした?35歳になるのよ。ますます色気全開よね。」
忘れないように手帳に6月15日と走り書きをした。後で社長に報告しよう。
思い切って八木さんに聞いてみてよかった。
「誕生祭は、誘っても征士郎様は来てくれないの。仕事が忙しいみたいで、今年も無理かな。いつか征士郎様の誕生日を本人も含め、みんなでお祝いしたいんだけどね。」
「……取り敢えず、ありがとう。」
その後、八木さんによる熱い室長への想いは暫く続いていたが、あまり覚えていない。
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