再会

5/9
前へ
/388ページ
次へ
(なごみ語り) 大野君と暫し見つめ合った。意味を持って見つめ合っているのではなく、お互い固まっている状態が続いている感じだ。 僕は、大野君の存在を確認したくて無我夢中だったから、会ったら何を話そうとか全く考えていなかった。言葉が……出てこない。 「あ、あのう…………」 言葉を切り出したのは大野君だった。 「…………なごみさんはこの後暇ですか?折角会えたんだし、良かったらご飯食べに行きましょうよ。もうじき終業時間なんで、さっさと業務を終わらせてきます。この先に赤い屋根の喫茶店があるんで待っててください。いいですね。分かりました?絶対に勝手に帰ったりしないでくださいね。」 「う、うん。待ってる。」 そう言うと、彼は急いで支店へ帰って行った。僕は半分放心状態で、待ち合わせに指定された喫茶店に入る。 本当に…大野君がいた。 すごく精悍(せいかん)になっていた。少し痩せて、髪も伸びていた。前みたいにどこか頼りない感じは消えていたように思う。 昔の人懐っこさはそのままで、大人になったようだ。益々格好良くなっていて思わず見惚れた。 後で、何故僕があの場所にいたのか説明しないといけない。前みたいに自分の気持ちに嘘はつきたくなかった。隠すなら傷ついた方がまだマシだ。 だけど、寺田の言ってたことが真実ならば、彼には恋人がいる。掻き乱すことはやりたくない。 もし、聞かれたら素直に答えよう。 僕はこの3年間、一度も君を忘れたはことはなかったよと。 伝えたら何か変わるのだろうか。 変わることを恐れていたら前には進めないのは分かってるけど、とても怖い。 僕の気持ちを伝えることは、ただの自己満足ではないだろうか。いや、恋愛なんて自己満足の過程の末に成り立つものだし、気にすることではない、と考え直した。 今の僕に必要なのは伝える勇気だ。 僕はコーヒーをぐるぐるかき混ぜながら、ここ最近で1番頭を使った。 「はぁはぁ……やっぱりなごみさんだ。 さっきのはもしかしたら幻じゃないかと何度も思いました。本物ですよね。本当になごみさんですよね。」 「何それ。ニセモノとかいるの?僕は1人だよ。」 息を切らして、大野君が喫茶店に入ってきた。本当に仕事を無理矢理終わらせてきたようだ。 僕が本物か?とか真顔で何回も言うものだから、可笑しくて思わず笑ってしまった。
/388ページ

最初のコメントを投稿しよう!

316人が本棚に入れています
本棚に追加