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(なごみ語り)
大野君と暫し見つめ合った。意味を持って見つめ合っているのではなく、お互い固まっている状態が続いている感じだ。
僕は、大野君の存在を確認したくて無我夢中だったから、会ったら何を話そうとか全く考えていなかった。言葉が……出てこない。
「あ、あのう…………」
言葉を切り出したのは大野君だった。
「…………なごみさんはこの後暇ですか?折角会えたんだし、良かったらご飯食べに行きましょうよ。もうじき終業時間なんで、さっさと業務を終わらせてきます。この先に赤い屋根の喫茶店があるんで待っててください。いいですね。分かりました?絶対に勝手に帰ったりしないでくださいね。」
「う、うん。待ってる。」
そう言うと、彼は急いで支店へ帰って行った。僕は半分放心状態で、待ち合わせに指定された喫茶店に入る。
本当に…大野君がいた。
すごく精悍(せいかん)になっていた。少し痩せて、髪も伸びていた。前みたいにどこか頼りない感じは消えていたように思う。
昔の人懐っこさはそのままで、大人になったようだ。益々格好良くなっていて思わず見惚れた。
後で、何故僕があの場所にいたのか説明しないといけない。前みたいに自分の気持ちに嘘はつきたくなかった。隠すなら傷ついた方がまだマシだ。
だけど、寺田の言ってたことが真実ならば、彼には恋人がいる。掻き乱すことはやりたくない。
もし、聞かれたら素直に答えよう。
僕はこの3年間、一度も君を忘れたはことはなかったよと。
伝えたら何か変わるのだろうか。
変わることを恐れていたら前には進めないのは分かってるけど、とても怖い。
僕の気持ちを伝えることは、ただの自己満足ではないだろうか。いや、恋愛なんて自己満足の過程の末に成り立つものだし、気にすることではない、と考え直した。
今の僕に必要なのは伝える勇気だ。
僕はコーヒーをぐるぐるかき混ぜながら、ここ最近で1番頭を使った。
「はぁはぁ……やっぱりなごみさんだ。
さっきのはもしかしたら幻じゃないかと何度も思いました。本物ですよね。本当になごみさんですよね。」
「何それ。ニセモノとかいるの?僕は1人だよ。」
息を切らして、大野君が喫茶店に入ってきた。本当に仕事を無理矢理終わらせてきたようだ。
僕が本物か?とか真顔で何回も言うものだから、可笑しくて思わず笑ってしまった。
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