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(なごみ語り)
一通り話をして少し休んでいた時だった。
「で、なごみさんは何故あそこにいたんですか?まさかね、とか思いましたけど。会えて嬉しかったです。」
来た。ある意味待っていた質問だ。
座敷の机には唐揚げや刺身が並んでいる。僕はオシボリを弄っていた手を止めた。
隣の個室では誰かの送別会をやっているようで、ざわざわと話す声が聞こえてくる。
「……大野君に会いたくて、覗いていたんだけど……直接支店に訪ねて行く勇気が無くてあそこに居たんだ。」
「え………わざわざ俺に会いに来てくれたんですか?本当に?」
大野君が驚いた顔をして僕を見た。
もしかして若干引いてる……かもしれないけど、勢いで言ってしまおうとを心に決めた。
後悔するかもしれないが、それは未来のことだ。そんなの誰も分からない。
「会いたかったから。お母さんに聞いて、居ても立っても居られなかったんだ。僕はね、大野君のことがずっと……好きだった。
もう3年も前のことなのに、まだ引きずって、今も忘れられない。」
やっと言えた『好き』は重くなかったかな。さらりと流してもらえるだろうか。
大野君を見ると、下を向いていて、表情が見えない。
しばらく待ったけど、まだ黙ったままだ。
「大野君?ごめん。気持ち悪いよね。忘れてくれていいから、ごめん。ごめんなさい……」
思わず僕は社交辞令を口にする。本当は忘れてほしくないのに、悪い癖だ。
「なんで、気持ち悪いとか言うんですか。俺………真面目に嬉しくて泣きそうです。なごみさんが、俺を好きとか……夢みたいで、3年前の俺に伝えてあげたい。本当にあっちでの暮らしは辛いことが沢山あったけど、耐えてよかった。最後にご褒美がありました……ぐずっ。好きって……嬉しい。」
大野君が急にめそめそと泣き出した。
なんだか、その様が可愛くて、しばらく眺めていたくなる。取り敢えず、引かずに喜んでくれたようだ。
僕の気持ちは無事に昇華できるかもしれない。
「あの、なごみさんは、今も……気持ちは変わっていないですか?」
涙声でおそるおそる大野君が聞いてきた。
「うん。勿論。好きだよ。」
ちゃんと目を見て気持ちを伝えることができた。
好きだよ、大野君。
君を取り囲むすべてのものが愛おしいと思えてくる。
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