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(大野語り)
「……はい。もしもし大野君、何だった?」
3コールで出た。深夜でもなごみさんの声を聞くと心が落ち着く。向こうは静かで、既に在宅のようだった。
「すみません。俺、大切なことを伝えていませんでした。」
「えっ、また契約書無くしたとか?」
けらけらとなごみさんが笑った。
「違いますって。今日はありがとうございました。あの…………俺も、ずっとなごみさんが好きでした。よかったら俺と付き合ってもらえませんか。絶対にうまくいくと思うんです。」
しいん、と静寂が流れた。まるで携帯と耳が同化したみたいに何も聞こえない。
「………僕、男だけど。それでもいいの?」
暫くして、なごみさんが言う。
「はい。それはずっと前から考えてましたけど、俺には全く問題ないみたいです。『あなた』がいいんです。ダメですか?貴方を大切にしたい。一緒に居たいんです。」
「………うん。こちらこそ、よろしくお願いします、と言いたい所だけど、大野君って彼女が居るって寺田から聞いてるよ。それは本当なの?彼女さんに失礼だよ。」
あー、あまりに寺田さんが鬱陶しくて適当についた嘘で、事実無根だ。
今更ながらそんな嘘は軽く付くものではないと後悔した。俺の馬鹿野郎。
「いません。て、寺田さんについた嘘で……信じてくださいよ。彼女なんていません。なごみさん?聞いてます?いませんよ。エアーですからね。」
涙目になりながら、なごみさんの回答を待つ。俺の真剣さが伝わっているか心配になってきた。誠実に話しているつもりが、いつもふざけた方向へ逸れていく。
「ふふふ、信じるよ。僕は大野君が好きだから。では、これから……よろしくね。わざわざ電話をくれて、ありがとう。」
「…………やったぁーーー」
思わず大きな声で叫んでいた。
好きだから……と言われることに慣れていないから照れてしまう。
顔が半端なく赤く熱くなるのが分かった。
「大野君、うるさい。耳が痛いよ。近所迷惑だって。」
そして、やっとやっとやっと、およそ4年越しの片想いが成就したのだった。
俺、生きてて良かった。
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