渉の恋

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(渉語り) そして、まどか君が淹れてくれたコーヒーを飲み、乾燥機で急いで乾かしてくれた服を着た。時間になったので、お礼を言って彼の家を後にする。丁寧にアパートの外までお見送りをしてくれた。 今までの自分なら絶対にしなかったことを、こんな歳になって一晩でやってしまった。深酒や酔った勢いの諸々と朝帰り。洋ちゃん家でもあまり泊まらなかった。次の日が休みの日だった場合は、ごくごく偶にお泊まりもしたけど、片手半分で足りるくらいだ。 朝の澄んだ冷たい空気の中、歩を進めながら先ほどの事を思い出していた。 一目惚れしたと生まれて初めて言われた。改めて1人で考えると、恥ずかしくて顔が赤くなる。こんな僕でも好いてくれる人が居ることに、救われた気持ちになった。 「待鳥センセ……もしかして昨日と同じ服じゃないですか。まさか、例のパティシエさんですか?クッキーを渡しに行きましたよね。でも向こうはあゆむ君がいるし……違うか。子供がいたら、朝帰りなんて出来ないですよね。お相手は誰です?教えてくださいよぅ」 そのまま出勤すると目敏いアスカちゃんに気付かれて、訝しげに見られた。     
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