渉の恋

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(渉語り) まさか今言われるとは思っていなかったので内心驚いていた。 すぐ近くには彼の逞しい肩があった。Tシャツ越しからでもよく分かる綺麗な筋肉だ。 彼と過ごす時間は居心地がいい。 「俺と付き合ってもらえませんか。渉さんと一緒に歩いていきたいです。流れる季節をこうして共に感じたい」 「……………えっ…………」 僕は同性が好きだ。恋愛対象は物心がついた時から男のみだ。男は独占欲が強い。そして本能的に相手を支配して、上の立場を選ぶ。洋ちゃん以外はすべてそんなタイプの人間と付き合ってきた。榊さんが典型的な例だ。 共に歩いていきたいという彼の言葉が胸に深く刺さった。寄り添ってくれる姿勢に愛しさを覚える。 素直に嬉しかった。僕はどう答えようか。 回答は単純でいいのだ。想いが伝われば問題ない。 「………まどかく………」 「わたるくーん、みーっけ。まどかせんせーも一緒だあ。なかよしさんだね」 僕が口を開きかけた時、僕を見付けたあゆむ君が笑顔を浮かべ全力で走ってきた。 つられて僕も笑っていると、後ろにいる新城さんの姿が見えた。 「歩。待ちなさい。待鳥先生、こんばんは。あ、まどか先生もご一緒なんですね。」 「え、あ、はい。こんばんは。」 僕が答えていると、まどか先生はぷいっとあさっての方向を見てしまう。 完璧にタイミングを失ってしまった。
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