渉の恋

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(渉語り) 「先日はありがとうございました。歩もすごく楽しかったって毎日言ってます。私も身体が軽くなって、重いものを持つのも随分楽になりました」 新城さんが王子様スマイルでにっこりと笑った。明後日の方向を見ていたまどか君が、不思議な顔をして僕に問う。 「先日……?お二人は仲が良いんですか?」 「あのね、あのね、わたるくんがおれんちに遊びにきたの。ハンバーグつくって、パパにはりをちくちくしたんだよ。ちくちくして、元気になったの。パパはわたるくんがすきなんだよ。おれもだいすき。へへへっ」 代わりに歩君が前に出て、まどか先生に一生懸命話しかけている。 それを優しく聞いている彼の横顔に、僕は胸がキュンとした。告白の返事はいつ言えるのだろうか。歩君達がいるところでは到底無理だ。 実はクッキーの件から、新城さんから連絡が来るようになり、色々相談を受けていた。歩君の子育てについてや、体調管理のこと。休みが重なった日は時々お宅にお邪魔して、ご飯を作ったり歩君と遊んだり、鍼を打ったりしていた。2人とも喜んでくれたので、僕も嬉しかった。 「そうですか。なんだ……渉さんは新城さん家に通ってるんですか。まるで3人は家族みたいに見えますよ。歩君、良かったね。パパが2人だ。………ええと……用事を思い出したんで、俺、先に帰ります。失礼します」 「えっ、まどか君……?」 彼は急に立ち上がり、その場を去ろうとした。訳が分からず慌てた僕は咄嗟にまどか君の手を掴んだが、すぐ振り払われてしまう。 新城さんに断りを入れて、人混みの中、見失わないように必死で追った。
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