渉の恋

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(渉語り) 「待って。まどか君。僕の話を聞いて。どうしたの?何か怒らせるようなことした?」 神社の階段を降りた所でようやく彼を捕まえることができた。息が切れてクラクラする。蒸し暑さも相成って汗が垂れてきた。 「怒らせる………?全くそんなことないです。俺は邪魔者かなと思っただけで、知らないのは自分だけだったんだな……と。前に渉さんが言ってましたよね。好きになると相手に尽くしてしまうって。私生活を自分なしでいられないくらい相手に依存させるのが、渉さんのやり方だって。その相手が新城さんだった。僕だけ舞い上がって何も見えてなかった。それだけです」 「えっ、新城さんは何も関係ないよ。ただの友達だから。何か誤解していない?僕は……僕は……まどか君だけだよ」 訂正するもなにも、真実しか言っていない。とんでもない勘違いをしている。ちゃんと説明したいのに、まどか君が僕から離れてしまいそうで、うまく口が回らない。 どうしよう……どうしたらいい……? 「新城さんの気持ちに気付いてないんですか?歩君だって知ってる。あれだけ尽くして知らんぷりは無いでしょう。俺は一方的にあなたを好きだったみたいですね。ごめんなさい。何と言ったらいいか……悲しいです。俺だけとか無理して嘘吐かなくていいですから」 違うよ。全然違う。僕が好きなのは君だけなのに。 「まどか君………ねえ……」 ゆっくりと、そしてしっかりとした力で、寄り添おうとした僕を重く突き放した。 彼の拒絶だった。 「渉さん………さようなら」 呟くように別れを告げられた。 彼の後ろ姿を目で追いながら、僕は脱力した。へなへなとその場に座り込み、何も考えることが出来なくなった。 それから、メールも電話もメッセージも繋がらなくなった。帰り道でも彼に会うことが無くなった。いつも僕を待ってくれていた川沿いの場所で、桜並木が寂しく葉を揺らしているのをただ眺めているだけだ。 そこに彼はいない。 まどか君が忽然と僕の前から姿を消した。
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