渉の恋

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(渉語り) 僕が好きなのは……それは……… 迷わなくてもすぐ分かる。その人の顔が思い浮かび、心にじんわりと火が灯る。 「………まどか君………かな」 「では、新城さんはどうするつもりですか?このままずるずると関係を続けるとまどか先生が嫌がりますよ。あなたが、はっきり言うべきです」 「ああ……もうそれは言ったよ。お祭りの日にまどか君が帰った後、うな垂れていたら告白された。もともとノンケの人には興味がないよ。新城さんなら女の子が放っておかないだろうし。僕の事は気の迷いだと思うから、丁重にお断りした。イケメンは苦手なんだよね。」 たぶん、新城さんは僕とまどか君の微妙な関係に気付いていた。だから敢えてカマをかけたのだろう。予想通りまどか君を退かせることは成功したが、僕は彼の思い通りにはならなかった。歩君には申し訳ないことをしたなと今でも思う。無邪気な笑顔に胸が痛む。 「イケメンパティシエとマッチョ保育士……美味しいですね。私はマッチョ好きなんで今の展開はウェルカムです。 じゃあ何を悩んでいるんですか?まどか先生に謝ればきっと許してくれますよ。すぐ連絡しましょう」 「えっ、だって音信不通だし………本人には会えないから」 家には行った事あるけど、うろ覚えだ。それに僕が行ったところで、今更遅いかもしれない。もう嫌われたかもしれない。 うじうじしている僕を横目で見ながらアスカちゃんは聞いたことの無いよそ行きの声で、どこかに電話をし始めた。 「待鳥センセイ、まどか先生は少し前に別の保育園へ異動になってました。だから会えなかったんですよ。姿を消す前に告白するとか、円先生の行動に泣けます。自分のことになると本当にあなたは鈍すぎる。いい加減気付いてあげてください」 「えっ……あ、ありがとう」 まどか君の職場に電話をして呼び出そうとしたアスカちゃんの行動力には脱帽した。
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