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(渉語り)
「まどか君……急に会えなくなって心配したんだよ。迷惑じゃなければ、僕の話を少し聞いてほしい」
恐る恐る震えた声で僕は彼に語りかける。
まどか君は僕を一瞥した後、顔を手で覆った。
「今更何か用ですか?……とか冷たく聞きたかったんですけど、そんな余裕がないです。渉さんが俺を探してここまで来てくれた事実だけで、嬉しくて……胸いっぱいで言葉が出ない。嘘みたい」
好意的な返事に安心した。
目の前には出会った時と同じ、丸いパンのヒーローを胸に着けたまどか君がいる。
園内には園児さんは誰もいなくて、残っていた数人の先生はすぐに帰って行った。
最後になったまどか先生は、本当はいけないんだけど……と僕を園舎に招き入れた。
誰もいない保育園はひっそりとしていて静かだ。ひたひたと自分の足音が響いて聞こえる。
建物内はお日様の匂いがして、子供達が不在なだけで別の建物のように思えた。
「僕の方こそ、色んな誤解させてしまった。ごめんなさい」
少し前を歩く逞しい後ろ姿を呼びかけるように僕は話を続けた。板間は素足に優しい。
「正直に言うね。新城さんとは何もないよ。夏祭りの日、まどか君が帰ってから告白されたけど断った。僕の軽率な行動が原因だったと思う」
「えええっ、マジですか?俺、祭りの日に告白しようって前から決めてたんです。異動後ならフられても、辛いのが減るし…とか考えてたヘタレですから。実際会えなくなって、更に辛かった…………ほら、上を見てください。昼間は日光の光が目一杯入って来ますが、夜は星が見えるんです。綺麗でしょう?」
まどか先生がこちらを振り返り、上を指差した。天井がガラス張りで吹き抜けのホールになっており、キラキラと星が瞬いているのが見える。
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