優しさで溢れるように

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(大野語り) 東さん宅で美味しい料理とお酒に囲まれ、調子に乗って俺たちの話をしていたら、いつの間にか隣で飲んでいたはずのなごみさんが、こたつで寝ていた。 ほんのり頰を赤らめて、すーすーと寝息を立てている。寝姿に軽く欲情した。なごみさんの隣では、カンナという三毛猫も丸くなっていて、ついでに触ろうとすると凄い勢いで威嚇される。 「やめときなよ。カンナは気に入った男にしか媚びを売らない。征士郎となごみ君だけ。拾ってやったのに俺は嫌われたからね。本当に女って気まぐれで難しい生き物だ」 自嘲気味に社長が笑う。 さっきから庶民的な白勢社長に驚きの連続だった。それを妻のように支える東さんも会社とギャップがありすぎる。周囲には全く公表していないらしく、尚更貴重に思えた。 こういうパートナー、うらやましいなぁ。 「酔いが冷めても、なごみは起きるか分からないだろう。今日は泊まっていったらいい。客間は航さんが使ってるから、2階の使っていない部屋に布団を敷いとくよ」 確かに俺もかなりの量を飲んだので、酔いが醒めるまで車で帰ることができない。なごみさんは寝ちゃったし、ここは東さんの好意に遠慮なく甘えようと思った。 いくら軽いとはいえ、寝ているなごみさんを車まで運ぶのは容易ではない。 「お願いします。色々ご馳走になってしまってすみません」 「いいよ。誘ったのはこっちだし、面白い話も聞かせてもらったから。こう言っちゃなんだけど、なごみって案外モテるよ。俺も時々ムラってくる時があるもん。ゲイだとかそんなんじゃなくてさ、たぶん秘書室にも狙ってる子がいると思う。女子は見てるよ。綺麗な草食系は需要があるんだ」 「俺も分かる。なごみ君って無性に色っぽく感じる時はある。だけど、俺は征士郎が1番だし……うぐぅっ」 あの社長が、東さんに抱きつこうとして全力で拒まれていた。そんなことよりもこの2人は何を言ってるんだ。 「ちょっと待ってください。なごみさんは俺の恋人ですよ。いくら東さんや社長でも絶対駄目です。冗談はやめてください。本気で笑えないです」 「ちゃんと捕まえておかないと、痛い目みるぞって話。欲しい人はいっぱいいるからね。力づくでも取る人だっているだろうし、元カレだってリベンジするしれない」 「そうだよ。河合君との仕事はまだまだ続く。彼の撮る写真は結構人気があるんだ。契約も更新する予定だ」 「………はぁ……そうですか」 やっぱりこの人はモテるんだ。分かってたけど第三者から言われると現実味を増す。 むにゃむにゃと寝ているなごみさんが少し起きた隙に、東さんが布団を敷いてくれた部屋へ連れて行った。 夜も遅くなり、お風呂をいただいて寝ようとしていた時だった。 翌朝のため携帯のタイマーをセットしていると、隣に寝ていたなごみさんが突然起き上がり、座っている俺の膝に乗ってきたのだ。 「はやとくん……?やっぱり隼人君だ。話は済んだの?いい匂いがする。お風呂に入った?」 顔を近づけて俺の目をじっと見つめている。 心なしか酒臭く、表情がとろんとしていた。酔っ払いのなごみさんは珍しい。この人は酔うと幼くなり、いつもと違う可愛さが顔を見せる。 「終わりましたよ。今日は東さん家に泊めてもらうことにしました」 「ふうん。あの人達嫌いなんだよね。僕たちのこと馬鹿にしてるみたいに思えたけど、上司だからしょうがなく聞いてたよ。つまんなかった。隼人君と僕ん家でゴロゴロしてたほうがよっぽど良かった。エッチしたかったな………隼人君もそう思わないかな。ねえ……ちゅーしよ」 「………えっ……待って……」 なごみさんの顔が更に近づき、横に傾けて唇を重ねてきた。生温い舌が口内を撫で回している。唾液の音をワザと立てて、思いっきり吸い付いてきた。 ちゅくちゅくと一生懸命に可愛らしい音を立ててくれる恋人に、愛しさが込み上げてくる。 ここは人の家だ。だけど積極的ななごみさんに嬉しくなって、俺はキスに応えた。
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