優しさで溢れるように

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(なごみ語り) 早朝、目が覚めて我に返った。 知らない家で隼人くんと寝ている。布団は2つひいてあるのに、何故か1つできゅうきゅうになって寝ていた。すぐ側に子供のような無防備な彼の寝顔があり、可愛さに和んだ。隣には寝た形跡のない布団が1組と、お互い見たことのないパジャマを着ていた。 うんと……鮮明に覚えている。昨日、酔った勢いでしちゃったんだ。そんなに泥酔していなかったけど、お酒の勢いは借りた。 隼人くんは優しい。絶対に僕を怒ったり、拒否したりしない。全て受け止めてくれる心の広さに感謝して、彼のおでこに小さくキスをした。好き。大好き。 まだ起きる気配が無いので、着替えて下に降りることにする。隼人君が綺麗にはしてくれたけど、お風呂には入りたい。借してもらおうかな。 「おはようございます……」 リビングへ降りていくと、東室長が朝食の準備をしていた。白いエプロンがやけに眩しく映った。家庭的な室長を秘書室の女子に話したらどうなるだろうか、考えを巡らせた。完璧すぎて卒倒するか、知りたくなかったと嘆くだろうか。たぶん前者が圧倒的に多い。 それよりも社長と恋仲の方がインパクトが大きい。 僕でも未だに信じ難いのだ。 「なごみ、おはよう。よく眠れたか?昨日、風呂に入ってないだろう。沸かしておいたからよかったどうぞ」 室長はリズミカルにネギを切っていた。手元の慣れに軽く圧倒される。 「お言葉に甘えて借ります。ありがとうございます。あ、社長。おはようございます」 「なごみ君、おはよう。大野君はまだ寝てるのかな?昨日はお見苦しい所を見せちゃったね。彼から聞いてない?」 ダイニングテーブルで新聞を読んでた社長が言った。隼人君が何か言っていた気がする。あぁ……キスを見たって。 「あっ……確か……ひぃっ……」 「なごみ。この家で見聞きしたことを一切口外するなよ。万が一漏れた時はお前からだとみなすからな。俺と航さんのことも絶対だ。航さんも余計なことを言わないでください」 突然持っていた包丁を僕に突きつけて室長が脅したので、怖くて身がすくんだ。 見た事実を口にしようものなら、たちまち秘書室に広まり大変な事態になるだろう。 そんなの怖くて誰にも話せない。 「は、はい……絶対に言いませんから」 「征四郎も頭が堅いな。怖い怖い。なごみ君も気を付けて」 頷く僕に能天気な社長が笑いかけた。 隼人君が煽られる位、熱烈な口づけをしていたのだから当然その続きはやったのだろう。無意識に腰を摩る室長を見ながら笑いそうになり必死で堪えた。仲がいいことは何よりだ。室長はそっちのほうか。社長が相手ならそうだろうな。 僕は決して他言しないと誓った。 それから、隼人君が起きてきて、風呂上がりの僕と共に朝ごはんを頂いた。 突然予定が変わったけれど、面白いものを沢山見ることができた。不思議な年末になったなと、隼人君の寝癖を見ながらぼんやりと思った。 【END】
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