白猫ヨーイチ

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(大野語り) 次の日、会社から帰ると猫用品が増えていた。ペット用のゲートや爪とぎ、トイレやクッションまでリビングがヨーイチの部屋と化していた。ヨーイチは母さんの寵愛を受けており、兄貴が何を言ってもその地位は揺るぐことがないみたいだ。うちでは母さんが1番強い。 餌にも気を遣い、ネットで調べたグルメなものを食していた。 「ふふふ、それで、『ヨーイチ』は元気?雪絵さんに可愛がられて、ヨーイチは幸せ猫だね。僕も近いうちに会いに行きたいな」 ヨーイチについて伝えると、なごみさんは嬉しそうに笑う。耳元にある笑顔を想像して切なくなった。 「元気ですよ。ヨーイチ……は、よく食べるしよく寝てますから。なごみさん、次はいつ会えますか?会いたい。猫じゃなくて、あなたに会いたい」 電話越しに聞く声は、物足りないけれど愛おしい。早く触れたかった。 「ごめん。仕事が忙しいんだ。今週末にはなんとかするから、もうちょっと待ってて。僕も隼人君と気持ちは同じだよ。早く会いたい……」 「………うん。分かってます。」 もう2週間も実物に会えてなかったので、早く彼を抱きたかった。邪な考えかもしれないが、貪るように身体を重ねたかった。俺の中でなごみさんが枯渇している。 電話を終え、今夜も寂しく自室で横になる。なごみさん家の広いベッドが恋しくなった。 すると突然生暖かい何かが首に触れた。びっくりして見ると、ヨーイチが布団に入っている。ふわふわした毛並みが気持ち良く、ヨーイチからはお日様の匂いがした。リビングから出て部屋内を散策することにしたのだろうか。猫は気まぐれで羨ましい。 「ヨーイチ、お前も寂しいのか。一緒に寝る?」 「ニャーン……」 俺は擦り寄ってくるヨーイチを抱いて眠りに就く。 ゴロゴロと喉を鳴らす音が心地良かった。 強い尿意により、夜中に目が覚めた。トイレに行った後、再び部屋に戻ると何かがおかしい。 俺の布団に誰かが寝ている。 段々と暗闇に目が慣れてきたので目視した後、こんもりとした布団をめくって中身を確かめた。 脂肪の少ない裸の何か……女ではないものが丸まって寝ている。俺は慌てて布団を剥がした。 「誰……?」 人の布団に裸で入ってくる奴なんて知らない。しかも背中の下には見たことない長いものがしっかりとくっ付いていた。 フサフサで、白い。 そう……それはまるで……ヨーイチの尻尾だ。興味深くさわさわしてみると、生きてるみたいにピクッと動いた。何度も繰り返し触ってみると跳ねるように巻きついてきた。 面白い。すごく面白いんだけど。 「………おいっ、僕の尻尾で遊ぶなよ。バカ息子。いっつもユキエがお前のことをそう呼んでるぜ、バカ息子、ハヤト」 「…………………………」 ゆっくり起き上がり、そいつは裸で布団の上に胡座をかいた。白い尻尾と耳が付いているが、歴とした人間だ。 そして言葉が出ないくらい驚いたことがある。これは夢なんだ。だから、どうにでもなるんだと自分に言い聞かせた。 顔が……なごみさんと瓜二つだ。 猫になったなごみさんが、ふてぶてしい態度で俺の前に座っていた。 ちなみに裸である。
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