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(なごみ語り)
夕方、内線が鳴った。
ディスプレイに出た番号に見覚えがある。朝もここに電話した気がするのは気の所為だろうか、頭の片隅から彼の存在が戻ってきたようだった。
「なごみさーん、助けてください。」
開口一番、泣きそうな大野君の声が聞こえてきた。
この時間の彼からの電話はろくなことがない。たぶん……頼られて助けて、残業決定だな。今日中に帰れるかどうかも怪しい。だって、自分の仕事も定時に終わりそうにないのだから。
「パソコンが壊れました。うんともすんとも言いません。画面が青いです。」
「えええっ……………分かった。今から行くよ。待ってて。」
あぁぁ、何故僕に言うのか。
僕は大野君の部署へ向かうべく席を立った。
大野君所属の法人営業第2部は僕の部署より上の階にある。苦手な人が多いから普段はあまり近づかない。
営業成績のいい人は一癖も二癖もあるのだ。
僕が行くと、同期の寺田に声を掛けられた。
こいつも……僕は苦手だ。
「和水、久しぶり。相変わらずあんな所で1日中パソコンいじってんの?」
「…………………」
返す言葉がもったいないので無視をした。
俺が一番の上から目線に辟易する。いつも得体の知れない自信に満ちており、胸焼けがしていた。寺田に関わるとロクなことがない。
「あ、なごみさーん、こっちです。」
僕に気付いた大野君が手を振って呼んだ。
助かった。寺田の相手は嫌だ。
大野君の所に行こうとすると、寺田に手を引かれた。
「今度飲みに行こうよ。同期で集まろう。」
「ははは、そのうちね。お前も忙しいだろうに、無理しなくてもいいよ。」
「別に、無理なんかしてないぞ。色々情報交換しようぜ。それに…………」
寺田が何か言いかけていたが、時間の無駄なので、スルリと足早にかわした。
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